八丁味噌の醸造

天然醸造法と即醸法

天然醸造法と即醸法のイメージ

暖かいと生物活動が盛んになることは良く知られていますが、味噌も同じです。酵素活性は高まり、風味に貢献する酵母や乳酸菌なども盛んに繁殖します。そこで、気温の低い季節でも味噌を加温することで熟成が早まり、コストダウンになるということから即醸法が広がりました。しかしどうしても風味は単純で、四季の変化を経た天然醸造には及びません。

昔の醸造方法

大豆は俵に入って到着しましたので、まずはゴミを除去して水洗いし、水に漬けて水分を含ませ、甑(こしき)という大きな蒸籠(せいろ)に大豆を入れて蒸します。一晩経って大豆を外へ出すとチョコレート色になっており、温度を下げて石臼と杵でつぶしてから手で握り、玉にして広げて菌を振りかけておくと、四日ほどで表面が黄色になります。これを麹(こうじ)といいます。味噌造りの時期は新暦の正月休み明けから三、四月までの寒い時期だったので、特に寒い日には練炭などを燃やして蔵の空気を暖めました。この季節が選ばれたのは寒くて雑菌が繁殖しにくいからで、昔は暖房はできても冷房をする ことは出来ず、寒い時のほうが菌の温度を適度に保つのが容易だったことも理由にあります。麹が出来たらこれを砕いて塩と水でこね合わせ、大きな仕込み桶へ運んで白足袋を履いた人が桶の中で味噌をよく踏みます。これが「仕込み」で、八丁味噌は水分が少なくて硬いので、中に空気が入ったままにならないよう足で踏みつけました。一杯になると木の蓋をし、その上へ重しに石を積んで熟成します。

現在の醸造方法

昔も今も製造原理は同じですが現在はかなり機械化されています。まずは、大豆を選別機にかけ、風力とふるいでゴミを除きます。続いてロール選別機で異物を取り除きます。次に水洗いをしてそれから大豆を水に浸して水を含ませるのですが、水に浸しておく時間は1時間~1時間30分程です。そのあと大豆の水を切って蒸し釜へ移し、蒸気を送り込んで蒸すのですが、蒸す作業は午後に一定時間行われ、一定時間が過ぎた後は蒸気を止め、翌朝までそのままにします。翌朝釜から出してみると、大豆の色がチョコレート色に変わっています。この蒸し加減が、最も技術と経験を要する作業です。蒸した大豆を玉握り機でこぶし大に握って味噌玉を作り、種麹散布機で表面に種麹を付けたあと、自動製麹室へ入れて発酵させます。室温を35度くらいに保ち、機械で手返ししながらムラを無くします。次は「仕込み」で、水分の吸収を早めるために発酵した味噌玉をつぶしてから水分と塩分が適当な割合になるよう自動的に制御し、発酵した味噌玉、塩、水を攪拌機にかけて混ぜ合わせ出てきた物を大桶へ移します。仕込みの翌日、大桶にビニールカバーを掛けて異物の混入を防ぎ、その上に杉の板を円型に置いて蓋をしてから石を積みます。桶一杯の味噌は約6トン、その上に積む石は約3トンです。石積み後は温度調節せず、自然の熟成を待ちます。熟成時間は二十数ヶ月で、一般の味噌よりはるかに長く、これが品質安定の秘訣となります。